【短編小説】待ってくれ、僕は認知症じゃない 第1章 普通の日常

注※この物語はフィクションです。登場する人物、施設などは架空のものです。

 

 

 

助けてくれ、帰らせてくれと言いながら首を絞められる夢を見た。
ものすごく現実的でリアルな夢だった。

そんな目覚めの悪い夢からまた1日が始まる。

 

僕の名前は内谷よしゆき23歳

介護の専門学校を卒業して介護福祉士の資格を取得して3年前この認知症グループホーム『若返りの里』に就職した。

認知症グループホームは1ユニット9人までの認知症の利用者が24時間365日共同生活をする施設で、この施設の名前の由来は高齢の利用者が若いヘルパーと生活するとこで若いエキスをもらって若返るという理由でつけられた名前だ。

 

 

《ヴゥーヴゥーヴゥー・・・》

 

 

スマートフォンの無駄にうるさいアラームが

部屋に響き渡る。

 

(今日からまた仕事か)

 

と頭の中で囁いて、もっと寝ていたいが支度を始める。

洗顔をして、歯を磨き、朝食の目玉焼きとバターロールを食べ、食後のコーヒーを飲み、セブンスターを一本吸う。

いつもと変わらない日常。

仕事の準備が終わり家を出る。

 

雲ひとつない空。このまま散歩にでも行きたくなるような天気だ。

目の前の道路にはぶち猫が日向ぼっこをしていて、隣のうちのおばさんは下手くそな鼻歌を歌いながら洗濯物を干している

 

自宅から車で15分の山の麓にある施設に到着

いつも少し早めにきて、従業員用の更衣室でのんびりと準備する

 

「はぁ~ぁ」

 

着替え終わると、必ずため息が出てしまう

 

タイムカードを切り、認知症利用者がいるフロアへ

 

「おはようございます!!」

 

その日夜勤だった新藤さん
僕より1個後輩のの小柄で可愛い女の子

 

「おはよ。朝から元気だね」

 

「もうそろそろ帰れるんで!笑」

 

「僕ももう帰っていい?笑」

 

なんていつもと同じ冗談をかまし、
利用者を起こしにいく。

 

勝手に起きてくる利用者もいれば
起こしに行くまで起きてこない利用者もいる

 

「おはようございまーす、内田さん朝ですよー、起きてください」

 

起こしに行ったのは内田よしおさん82歳
結構重度の認知症の方で最近の記憶はほとんど忘れてしまう

 

「嫌だね、帰ってくれ」

 

まぁいつものことだ
一声かけておけばあとで勝手に起きてくる

 新藤さんと手分けをして他の利用者の人にも声をかけて起きてもらい、新藤さんが夜勤中に作った朝ごはんをみんなで食べる

 食事を食べる間、朝のニュースで介護施設の職員が利用者に暴力をふるって逮捕されたと報道されていた

 

(気持ちはわからなくもないけど手は出しちゃダメだよなー)

 

なんて思いながら見ていると奥の部屋から

内田さんがゆっくり歩いてきた

 

「内田さん!おはようございます!」

 

新藤さんがさっきより元気な声で挨拶をする

 

「・・・」

 

内田さんは無言で席に座り、そのまま朝食を食べる

 

「なんだこの飯は残飯の方がマシだ」

 

この人はいつも何かにつけて文句を言ってくる。
せっかく新藤さんが作ったのになんて酷い事を言うんだ。

 

 

「ごめんなさい!口に合わなかったですか?もっと修行して上手になりますね!」

と笑顔で返す

 

(よく怒らないな。僕がそんなこと言われたら食うなって言いたくなるけど)

 

食事が終わり、後片付けをしていると内田さんが大きなバッグを持って玄関に向かっていた

 

「内田さん、どこ行くんですか」

と僕が聞くと

 

「うるせーな帰るんだよ」

 

(毎日同じこと繰り返して、帰りたいのは僕の方だよ)


なんて思いながらも

 

「帰れませんよ」と引き止める

 

「なんでお前に指図されなきゃいけねんだ!」

 

と少し顔を赤くして怒鳴る

 

「なんでって・・・」

 

少し言葉に詰まると

 

「おはよー!」

 

とベテランのパートさん上重さんが出勤してきた

 

「おはようございます」

「おはよーございまーす!!」

 

「あら内田さん、どちらへ?」

 

「帰ろうと思ってるのにこいつが帰らせてくれねーんだよ」

 

「でも内田さん、私今来たばかりですよ~もう少し顔見せてくださいよ~。それに今日お家の人家にいないみたいだし、手伝ってもらおうと思ってたことがあるんですけどお願いできませんか~?」

 

「しょうがねーな少しだけだぞ」
と部屋に戻って行く

 

(おいおい、そんな嘘が通用するのか)

と思っていると

 

「内谷くん、認知症の患者さんを否定してはダメ。本人は本気で帰ろうとしているんだからそれに合わせてあげなくちゃ。でも帰ってもらうわけにはいかないから話を合わせつつも本人が納得いくような声かけの仕方をしなければ。」 

 

「そんな騙すようなこと」

 

「騙すのとは少し違うわ、利用者様が不安にならないように声掛けをしたり、生活のお手伝いをするのが私たちの仕事。私たちが思っていることが真実だとしても、本人はそうは思っていないのよ」

 

(さすがベテランは違うなー)

なんてほんとは納得いっていないのに頭の中で棒読みにする

 

「わかりました、気をつけます」

 

そんな話をしたあと
上重さんは利用者全員に気さくに挨拶をして掃除を始める

 

「上重さんってすごいですよね、料理も上手だし、利用者さんの声かけの仕方も勉強になりますよね」と新藤さん

 

「あんなの騙してるだけだよ、どうせ心のどっかで笑ってるんじゃないの?料理だって新藤さんの方が上手だと思うよ」

 

「ありがとうございます!お世辞でも嬉しいです!笑」

 

「いやいや、お世辞じゃないし!」

 

そんな会話をしていると遅番の吉見さんがちょっと早めに出勤して来た。

吉見さんはここ若返りの里のユニットリーダーで、無口だがみんなに頼りにされる存在だ

 

「おはよ」

 

「おはようございます」

「おはよーございまーす!」

 

上重さんも奥の部屋から

「吉見くんおはよー!」と挨拶をする

 

夜勤者は、遅番の人に申し送りをする
新藤さんは吉見さんと事務所に入り申し送りを始める

 

(男女が密室に二人きりなんていかがわしい)

 

と冗談ながらに思いながら、自分の仕事に取り掛かる。

 記録を書いたり、洗濯をしたり。

 そのあと玄関掃除をしていると事務所から鼻をすするような音がして

気になったので耳を澄ましてみると、

 

「私・・もう自信がないです・・・

やめようと思っています・・・」

 

えっ?

 

それは朝あんなに元気だった新藤さんの声だった

 

(なんで?朝はあんなに元気だったのに。)

 

「内谷くーん、サボらないのー!」
奥から上重さんの声

 

「すいませーん!」

 

(やめるってなんだ?なんでそんなことに)

 

すると事務所から2人が出てきた。

 

「お疲れ様でしたー!頑張ってくださいねー!」

 

目の周りを少し赤くした新藤さんがそう言って帰っていった

 

気になるが今は仕事に集中しよう・・・

 上重さんがお昼ご飯を作っているときに

吉見さんに聞いてみた

 

「あの~、さっき事務所で話していたこと少し聞こえちゃったんですけど~・・・」

 

「あとで話す、お前もう休憩だろ」

 

「あ、そうでした、行ってきます」

 

そう言って事務所でお昼ご飯を食べる・・・が気になって食事に集中できない!

なんとか食べ終わって一服しに行くが、ずっと考えてしまう。

 

 

「私・・もう自信がないです・・・

やめようと思っています・・・」 

 

 

ほんとにやめちゃうのか!?
僕の仕事での唯一の癒し新藤さんが?

 

そんなことを考えているといつのまにか休憩時間は終わっていた

 

「戻りましたー」

 

休憩から戻ると、利用者の食事介助だ
内田さんは相変わらず、ムスッとしながら

 

「こんな動物の餌みたいなもん食えるか」

 

と言いつつも食べている

 

「あら内田さん、人間だって動物ですよ~笑」とうまくかわす上重さん

 

 

食事が終わると利用者を食休みさせて
上重さんと吉見さんは休憩に行き、
ひと段落ついた僕は記録を書き始める

 

すると吉見さんが来て、僕の前に座り、

 

「今朝の件だけど」

 

と話し始めた

 

「新藤は周りには明るく接しているが、やめたいと思うほど自分に自信がなくなっている、頑張って練習した食事に文句を言われ、夜勤中も何度も叩かれたことがあるそうだ、」

 

「そんな・・・誰がそんなこと・・・」

 

「お前も心当たりがあるんじゃないのか」

 

内田さんか・・・

 

「食事の文句はいつも言ってますけど、暴力を振るうなんて・・・」

 

「俺たち介護職員はそれを聞き流すことも仕事のうちだ。一応引き止めはしたが決めるのは本人だ、どうするかはあいつが決める。心配しないでお前は自分の仕事に集中しろ」

 

「わかりました」

 

話が終わると吉見さんは事務所に戻っていった

 

(新藤さんに暴力を振るうなんてありえない!)

 

そんなことを思っていると

また大きなバッグを持った内田さんが歩いてきた

 

(また帰ろうとしているのか)

 

さっきの話で少し気が立っていたこともあり、

 

「内田さん、帰れないって言ってるでしょ!」

 

と強く言ってしまった

 

「なんなんだよお前は!俺がどこへ行こうと俺の勝手だろ!」

 

と言った後、頬を殴られた。

 

怒鳴り声を聞いた上重さんが出てきた

 

「内田さん、娘さんが午後こちらにみえるそうですよ!今帰っちゃうと入れ違いになっちゃうのでもう少し待っててもらえますか~?」

 

「知ったことか!今帰るんだ!」と暴れている

 

すると事務所から吉見さんが電話を持って出てきた。

 

「内田さん娘さんから電話です」

 

 

「・・・もしもし、もうこんなとこいたくねーんだよ。早く迎えにきてくれよ・・・わかった・・・明日迎えに来るんだな。待ってるよ」

 

「娘さんはなんて?」と上重さん 

 

明日迎えに来ると」

 

「じゃ今日はゆっくりしていってくださいな!」 

 

「そうするよ」と部屋に戻っていった

 

 

「大丈夫?」と上重さんが心配してくれている

 

(大丈夫な訳あるか!なんで殴られなきゃいけないんだ!)

と内心思いながらも

 

「・・・大丈夫です」と答えた

 

 

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